筆おろししてあげる -初夏の誘惑-【読破!読みモノシリーズ】

『筆おろししてあげる -初夏の誘惑-』
五月の陽射しがアスファルトを焦がす夕暮れ、森元順はスーパーの買い物袋を手に、汗で湿った首筋を拭った。学校帰りに立ち寄ったいつものスーパー。カゴに入れたのは母に頼まれた醤油と、自分の好きなポテトチップスだけ。いつも通りの退屈な一日のはずだった。
「ちょっと、そこの君! 待ちなさい!」
背後から鋭い声が響き、順は足を止めた。振り返ると、スーパーの制服を着た女性がこちらを睨みつけている。黒髪を緩くまとめたポニーテール、切れ長の目、整った顔立ちに妖艶な微笑。名札には「小澤宜子」とある。20代後半だろうか。彼女は腕を組み、胸元を強調するように体を傾けた。その視線は、まるで獲物を吟味する雌豹のようだった。

「あそこの私立の生徒よね? 盗った物、出してちょうだい」
「万引き? 僕、絶対そんなこと…!」
順は慌てて否定したが、宜子の目は疑念と何か別の欲望に濡れていた。彼女は一歩近づき、甘い香水の匂いを漂わせた。
「ふーん、じゃあ荷物見せなさい。潔白なら問題ないでしょ?」
有無を言わさぬ口調に、順は渋々買い物袋を差し出した。無実を証明すればいいだけだ。宜子はゆっくり、まるでわざと時間をかけるように袋を調べ、さらには順の鞄にまで手を伸ばした。彼女の指が鞄の内側をなぞるたび、なぜか順の背筋にぞくりと電流が走った。
「…あら、なんでもないみたいね」
宜子は急に声を甘く変え、唇に意味深な笑みを浮かべた。彼女の瞳は、まるで順の心の奥まで見透かすようだった。
「疑ってごめんなさい! 私ったら、なんてことを…。ねえ、お詫びさせて?」
「いや、わかってもらえたならそれで…」
順は気まずく笑い、逃げるように踵を返そうとした。だが、宜子は素早く彼の腕をつかんだ。彼女の手は驚くほど柔らかく、爪が軽く肌に食い込む感触に、順の心臓が跳ねた。
「待って。連絡先、教えて? お詫びに何かしたいの。…ね、お願い」
その声は甘く、どこか危険な誘惑に満ちていた。断る理由もない。順は彼女のスマホに自分の番号を入力し、背中に感じる熱い視線を振り切るようにその場を去った。
数日後の土曜日、順のスマホにメッセージが届いた。
「今日、時間ある? お詫びにお茶でもどう? 私の家、駅からバスで10分よ。住所送るね!」
差出人は小澤宜子。団地の住所と部屋番号が添えられている。順は一瞬迷ったが、彼女の妖艶な笑顔とあの日の香水の記憶が頭をよぎり、好奇心が勝った。制服を脱ぎ、Tシャツとジーンズに着替えて家を出た。
団地は郊外の静かな住宅街に佇んでいた。古びたコンクリートの建物、表札のないドアが無機質に並ぶ。指定された部屋の前で、順は深呼吸し、インターホンを押した。
ピンポーン♪
ドアが開き、宜子が姿を現した。
「お外、暑かったでしょ? 立ち話もなんだし、中へどうぞ」

彼女の声は蜜のように甘く、誘うような響きがあった。スーパーの制服とはまるで別人。薄手のシルクのキャミソールは胸の谷間を露わにし、タイトなショートパンツは豊満なヒップを強調していた。黒髪が肩に流れ、夕陽に照らされて艶やかに輝く。順は思わず息を呑み、頬が熱くなるのを感じた。
部屋はシンプルだが、女性的な雰囲気が漂っていた。ソファと小さなテーブル、窓から差し込むオレンジの光がカーテンを染める。宜子は順をソファに座らせ、冷えた麦茶をグラスに注いだ。彼女の指がグラスを渡す瞬間、わざとらしく順の手を撫でた。
「緊張してる? ふふ、かわいいね、順くん」

宜子はそう言って、順の隣にぴったりと腰を下ろした。彼女の太ももが彼の腿に触れ、その温もりに順の全身が反応した。彼女の香水が鼻腔をくすぐり、頭がぼうっとする。
「ねえ、順くん。昨日は何をオカズにオナニーしたの?」
突然の質問に、順は麦茶をこぼしそうになった。顔が一気に真っ赤になり、言葉に詰まる。
「な、なん!? 急に何ですか…!」
「ふふ、ごめんね。興味あるの。男の子って、いつもそういうこと考えてるでしょ?」
宜子は悪戯っぽく笑い、身を寄せてきた。彼女の胸が腕に軽く当たり、柔らかな感触に順の心臓は爆発しそうだった。彼女の指が、まるで羽のように順の腕をなぞる。その感触は、まるで火花が散るように全身を駆け巡った。
「キス、したことある?」
宜子の声は囁くように低く、まるで魔法の呪文だった。順は首を振るのが精一杯。彼女の瞳は、獲物を絡め取る蜘蛛の糸のように逃げ場を奪っていた。

「じゃあ、私が教えてあげる」
宜子はそう言うと、ゆっくり顔を近づけてきた。彼女の唇は柔らかく、甘いリップグロスの味がした。順の頭は真っ白になり、ただその感覚に溺れるしかなかった。キスは徐々に深くなり、彼女の舌がそっと彼の唇を割り、絡み合う。順の背中に彼女の手が回り、爪が軽く肌を引っ掻く。その刺激に、彼の全身が震えた。
「ん…順くん、かわいい…。もっと、感じて?」
宜子の声は熱を帯び、まるで蜜のように彼の心を絡め取った。彼女の手は彼のTシャツの裾をたくし上げ、素肌に触れた。指先が腹部をなぞり、ゆっくりと胸元へと這う。順の肌は熱くなり、彼女の触れるたびに小さな電流が走った。
「や、ちょっと…待って…」
順は弱々しく抵抗したが、宜子の微笑はそれを飲み込んだ。彼女は彼の耳元に唇を寄せ、熱い吐息とともに囁いた。
「大丈夫。全部、私に任せて。気持ちいいこと、教えてあげる」
夕陽が部屋を赤く染める中、宜子は順をソファに押し倒した。彼女の黒髪がカーテンのように落ち、順の視界を覆う。キャミソールの肩紐がずり落ち、豊満な胸が露わになる。彼女の指は彼のジーンズのボタンを外し、ゆっくりと下着の中に滑り込んだ。順は息を呑み、全身が硬直した。
「ふふ、こんなに反応しちゃって…。初めてなの、わかるよ」
宜子の声は甘く、まるで彼の心を解きほぐす魔法だった。彼女の手は巧みに動き、順の理性を溶かしていく。彼女の唇が首筋に這い、軽く歯を立てる。その痛みと快感の混じる感覚に、順は声を抑えきれなかった。
「ん…やっ…宜子さん…」
「いい子ね。もっと声、聞かせて」

宜子はそう囁き、順のシャツを完全に脱がせた。彼女の舌が彼の胸をなぞり、敏感な部分を執拗に愛撫する。順の体は熱くなり、まるで彼女の手中で溶けていくようだった。彼女の太ももの柔らかな肌が彼の腰に触れる。その感触に、順の欲望はさらに高まった。
宜子は順の上にまたがり、ゆっくりと身を揺らした。彼女の動きはまるで波のようにリズミカルで、順の意識を快楽の渦に引きずり込む。彼女の吐息が耳元で響き、甘い声が彼をさらに追い詰めた。

「順くん…私も、気持ちいいよ…。一緒に、もっと…」
彼女の言葉は途切れ、代わりに熱い吐息と小さな喘ぎ声が部屋に響いた。夕陽が沈み、部屋は薄暗い闇に包まれる。だが、二人を包む熱は冷めることなく、まるで初夏の夜そのもののように燃え上がっていた。


どれだけ時が過ぎたのか、順にはわからなかった。窓の外はすっかり暗くなり、団地の部屋は静寂に包まれていた。宜子は満足げに微笑み、汗で湿った順の髪を撫でた。彼女の肌はほのかに上気し、キャミソールが乱れたままだった。

「ね、順くん。気持ちよかったでしょ?」
順は言葉もなく、ただ頷いた。頭はまだ快楽の余韻に支配され、心臓は激しく鼓動を刻んでいる。宜子はそんな彼を見て、くすりと笑った。
「また、遊びに来てね。もっと、すごいことしてあげる」
その言葉に、順は抗えない魅力を感じた。彼女の笑顔は、まるで夜の花のように妖しく、同時に危険な誘惑に満ちていた。
団地を後にしたとき、夜風が順の火照った頬を冷ました。頭の中はまだ彼女の感触と声でいっぱいだった。あの日、スーパーで呼び止められた瞬間から、すべてが彼女の仕掛けた甘い罠だったのかもしれない。だが、順は後悔していなかった。
初夏の夜、団地の窓から漏れる明かりを背に、少年は一歩大人に近づいた。その先にどんな快楽が待っているのか、彼自身まだ知る由もなかった。