マンガ「社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった」の魅力をネタバレ込みで徹底解説!

「社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった」は、 原著が結城鹿介 、作画が 髭乃慎士の漫画です。ニコニコ漫画「このマンガがヤバい! 2018年」ノミネートされた作品でもあります。異世界と言っても、剣と魔法の世界ではありませんが、比肩するほどエンターテイメント性はあります。


ブラック企業という問題の提起も行えるような社会的な意義を持ちながら、エンターテイメント色を全面に押し出して描いているギャグ漫画なので、笑いながら楽しめます。

主人公はブラック企業のOL!?

「社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった」の主人公である粕森美日月(通称・かすみ)は、新卒でブラック企業に就職した社会人3年目の女性。物語の1コマ目は「私は30連勤中の普通のOLです社会人なのでこれくらい普通ですよね」といきなりブラック企業就労者の価値観がぷんぷん漂う強めのコメントで始まります。主人公は朝6時に出社して、帰りは終電が間に合わなければ会社に宿泊していました。休日は1ヶ月に1回、手取りは約10万円とその他も非常に劣悪な環境でまさに奴隷のように働く社畜でした。しかし、給与について「半人前なのでもらえるだけでもありがたいですよね!」と本人がコメントしているように、この主人公は極めて飛び抜けて会社に盲目的に従順ではありますが、ブラック企業で就労する人々が陥りがちな思考回路が見事に描かれています。

終電を逃した主人公は、風に当たりに会社の屋上に出て、流れ星に有給を1日だけくださいとお願いします。その後「ハッなんて恐ろしいことを願ってしまったの…社会人としてそんなのありえないわ…」とブラック企業の「社会人として」という価値観に洗脳されているため、ほとんど反射的に罪悪感にかられて焦っている次の瞬間、流れ星に打たれ白い光に包まれます。次のページでは、主人公は「異世界に飛ばされ」ます。流れ星に打たれて気がついたら、そこは異世界=ホワイト企業の入社挨拶の場だったのです。


実際、主人公は元いた世界とは異なる世界に飛ばされたようで、入社した会社名「株式会社ホワイト製作所ぐんま支店」と聞いても、「グンマ・どこだろう…?」と地名を知らず、「とにかくここは異世界なのね!」と異世界に飛ばされたと認識していました。しかし、元いた世界での前社ブラックシステムは倒産したとも知らされるので、完全に異世界というわけではなく、どこかしらで繋がってもいるようです。とにもかくにも僅か数ページというスピーディーな面白さで主人公の異世界=ホワイト企業ライフが幕を開けます。

転生後は4コマ漫画のような形式で描かれています。ホワイト企業での最初の挨拶の際、前社でみんなに呼ばれていたニックネームを聞かれ、主人公はとっさに「かすみ」と答えます。しかし、本当は苗字を文字って「ゴミカス」、残業中は「残りカス」と呼ばれていました。前社でそのようなモラハラに加えセクハラも横行していたようです。

ホワイト企業に戸惑う主人公

前社の新人研修も印象的です。早朝登山マラソン、穴を掘って埋める、集団で人格否定など、どこぞの悪意を持った団体が洗脳する際にもよく使う手法が紹介されています。特に前社のブラック企業は人格否定を巧妙かつ大胆に使い、主人公かすみはマインドコントロールをされていたため、ホワイト企業の基準にいちいち驚愕し怯え狼狽えます。

例えば、定時退社できること、残業があったとしても残業代が全額支給されること、経費精算したら全額承認されること、記録上は休暇だが実際は出勤することもなく申請通り休暇が取れること、時間に余裕を持って直行直帰が可能であるとこ(「会社によっていたら無駄足になってしまうから」とリーダーが発言しています。)、現場の営業マンが顧客の要望に対して返答する際、「はい」か「イエス」かの2択だった前社と違って無理なリクエストにはしっかりと断り代替案を出すマニュアルが経営陣レベルの意向で設定されていることなどなど、例を挙げると切りがないほどです。ホワイト企業とブラック企業の対比がギャグテイストで行われています。


登場人物達も余裕があり個性豊かで魅力的です。かすみをサポートしてくれる先輩、隣の課の社員との交流やチームプレーなど、特に女性同士の関係性も可愛らしくほんわかと描かれています。また、制度などのシステム自体はホワイトでも、やっぱり厳しい人や難しい人はいることもしっかり盛り込まれています。しかし、厳しいながらもホワイトな基準を厳守しているので、余裕を持って人を捨て駒ではく一個人として尊重しながら仕事ができるという当然でありながら大切なことを描いています。

ブラック企業やそれに類似する企業に勤めていて転職を経験した人には、共感できる場面が非常に多いようです。もちろん、主人公のような働き方をしていない人も色々な立場の人が楽しめるように大変わかりやすく描かれています。


ギャグテイストが全面に出ているのでエンターテイメント的な面白さに加えて、社会的に問題となっているブラック企業やそれに似た働き方に染まっている一定の層に対して、別の価値観や基準があることに気がつかせるという啓蒙的な魅せ方もある作品です。労働環境の差異をほんわかとしたテイストでユーモアたっぷりに描いているので、ギャグ漫画として人にお勧めできる作品です!